小話

表現の仕方。その趣味。

基本的にハードボイルドな表現、 これは気の利いた警句を喋るのでなく、 単純に直接的な内面描写「彼女は悲しいと思った」「なんじゃこりゃ、ひでえもんだ、と思った」 とかを禁止すること。内面の活動を描写するときは、行動として描写することを試みる。 …

キャッチャー・イン・ザ・ライ風味

マジかよ、と思った。 みんな知ってるか? 実は今までの人生は取り消せなくて、過去は変えられなくて、そんでもって僕は僕、君は君以外にはなれないんだ。え、なに。そんなの当たり前だろうって? 本当に? 本当に当たり前なら、よく平気な顔をしているな、…

エブリディ・サンシャイン

四、五尋はある超広帯域光ファイバの束からは、気持ちの良い陽光が照射されていた。近くの端末で確認すると、リオデジャネイロ、と帰ってくる。このリオデジャネイロ光で日向ぼっこをするのが、僕の趣味であった。僕こと西園寺ペトロニウス・ナインスサード…

キャットライクステイト#19

午後、ソファに寝そべりながら、ボクは簡単な量子力学の本を読み返していた。そこではエルヴィン・シュレーディンガー(物理学者。そしておそらく猫嫌い)が、「量子力学的重ねあわせでは生きた猫と死んだ猫が云々」と書いていた。 量子力学では状態は観測す…

最大エリミネーション

「じゃあ、教えてよ。名前」 「……ユキ」 「スノウ?」 「違う。フレンズに、紀行文のキ」 「トモダチを……、シルシテいくわけだね。良い名前だ」 「問題が一つ。間違いも一つ」 「続けて」 「友人を記しても、投函するあてがない」 「問題。たしかに。間違い…

エクセルシオール#12

外は真夏日の今日に四畳半の冷房がギンギンに効いた部屋でジーンズに柄のシャツを引っ掛けて二世代前のiMacでネットラジオを聴きつつロイヤルコペンハーゲンの紅茶を真面目に洗っていなかったせいで曇りが出てきたターコイズブルーのウエッジウッドで飲みな…

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神様はダイスを振らないんだ……。しんじゃえ。

novel 10/183

夜の3時。雨が降っていた。ジョニー・ロットンがノー・フューチャーを連呼していた。僕は一人で研究室にいた。そろそろTSUTAYAも閉まっただろうか、などと思いつつ、そろそろベットで仮眠しようかと思い、そろそろ寝るね、と、そろそろとメッセンジャーを切…

novel 9/183

インスタント・メッセンジャーに現れた、見知らぬ訪問者。普段だったら即座に拒否リストに載せるところだろう。しかし、例の事件で少々疲れていた私は、突然の訪問者で遊んでみることにした。ろくでもないことだが。 [02:09:31] SE.neca: こんばんは。 [02:0…

novel 8 / 183

昨今の問題は、皆が皆、死ンじまってることにある、と鴨雁は思う。神も死んだし、ロックも死んだ。カリフォルニアにいた、ごきげんなウイザードたちも魔力を失った。まあ、正確には死んだというよりは……、資本投下に進化した、というべきかね。進化の過程で…

novel 7/183

今日も今日とて、僕は先輩に連れられて丸善にきていた。大学から、20分ほどの低速度交通の旅。ちょっとした専門書を買うためだ。彼女は何故かアマゾンを憎んでいて、絶対に使わない。そこで、ちょっとマイナーな洋書を買うときは、いつもこうして都内をうろ…

novel 6/183

昨日、ハイになりすぎて歌舞伎町のどこかへ飛んでいってしまった先輩は、夕方には研究室にやってきた。とりあえず生きてはいたようだ。安心。嘘だが。いつも不機嫌そうな眼が、さらに細められているところを見ると、昨日の酒がだいぶ残っているようだ。「サ…

novel 5/183

朝6時の研究室は、珍しいことに静かだった。いつもだったら、泊まりで実験をしていた連中が大いびきをかいているのだが。昨日は皆、健康的に終電で帰ったらしい。僕はコーヒーメーカーに、おはようと挨拶をしてから、メインのコンピュータを立ち上げる。ス…

novel 4/183

登場人物表 デリィ:異星人 古岡・エキ:伯爵 参岳・ジュン:学者 狩衣・サニトシ:学生 角墨・ニキ:学生 高住・セネカ:姉 多霞・ケイ:妹 三輪坂・スセイ:刑事 鴨雁・リクナ:騎士 瑠璃・ルリ:革命家

novel 3/183

深酒をした後の覚醒というのは、いつも唐突なものだ。今までの狂騒が急に遠ざかり、文字通り、醒める。冷淡な、投げやりな、そんな気持ちになるものだ。このときもそうだった。気が付くと、僕は、カラオケボックスのソファで寝ていた。床には、自分で吐いた…

novel 2/183

「どうしたの?」と、涼やかな声。そのイントネーションは、7年前の初恋の人に似ていた。僕はのろのろと顔を上げる。誰もいない。と思うと同時に、携帯が鳴る。面倒で、相手も確かめずにでる。「もしもし」と言った直後に、携帯の電池が切れていたことを思い…

novel 1/183

"I wish I were a bird, I would fly to you." 英語の授業で、ティーチャー・アリガがこの例文をクラス全員に復唱させたことを、僕は鮮明に覚えている。そのとき僕は14歳で、ケンとジニーが仲良く、これはペンで、僕はニューヨークからきて、それはオレンジ…

その3

「ふうん」セネカはそういって煙草をくわえる。「ライタ持ってる?」 「禁煙ですよ」 二度目の忠告。 「だから?」 セネカはその程度ではあきらめない。 凪瀬は無言でポケットからマッチを出し、擦る。低温の炎がオレンジ色の可視光を発する。セネカは煙草に…

その2

西森セネカは健康的な女だ。その証拠に朝の五時には完全に目覚めている。おまけに電話もかけてくる。 夜明け前の電話は悪魔だ。少なくとも常識の敵だ。敵は攻撃すべし。悪は滅殺すべし。手始めに電話を窓の外に投げ捨てるべきか。凪瀬はそんなことを考えなが…

その1

「幸せな恋が実ったら、すぐにでも死んでしまいたい」 彼女はそういって微笑んだ。その幸せそうな微笑は、彼女が嘘をつくときの癖だ。 「きれいなまま終わる恋なんて、物語の中にしかないもの。どんなに真摯な愛だって、二〇年もすればくたびれて、見る影も…