1004-11-01から1ヶ月間の記事一覧

その3

「ふうん」セネカはそういって煙草をくわえる。「ライタ持ってる?」 「禁煙ですよ」 二度目の忠告。 「だから?」 セネカはその程度ではあきらめない。 凪瀬は無言でポケットからマッチを出し、擦る。低温の炎がオレンジ色の可視光を発する。セネカは煙草に…

その2

西森セネカは健康的な女だ。その証拠に朝の五時には完全に目覚めている。おまけに電話もかけてくる。 夜明け前の電話は悪魔だ。少なくとも常識の敵だ。敵は攻撃すべし。悪は滅殺すべし。手始めに電話を窓の外に投げ捨てるべきか。凪瀬はそんなことを考えなが…

その1

「幸せな恋が実ったら、すぐにでも死んでしまいたい」 彼女はそういって微笑んだ。その幸せそうな微笑は、彼女が嘘をつくときの癖だ。 「きれいなまま終わる恋なんて、物語の中にしかないもの。どんなに真摯な愛だって、二〇年もすればくたびれて、見る影も…