その1

「幸せな恋が実ったら、すぐにでも死んでしまいたい」
 彼女はそういって微笑んだ。その幸せそうな微笑は、彼女が嘘をつくときの癖だ。
「きれいなまま終わる恋なんて、物語の中にしかないもの。どんなに真摯な愛だって、二〇年もすればくたびれて、見る影も無くなる。あら、悲しそうな顔をしないで」
 僕はどうやら悲しそうな顔をしていたらしい。彼女は僕を元気付けるようにもう一度微笑む。
「仕方が無い。ちょっとした本能なんだから。恋に飽きるのはシステムの問題」
「システム」
 僕はまったく同じ言葉を返した。
「そう。システムから離脱するの」