novel

05: 舞姫

サーバは既に落ちている。研究室は静かで、白熱灯の光がまぶしいのが無駄だ。学会の締め切りが昨日終わったこともあり、皆、昼過ぎには帰っていった。今晩は初雪だそうだ。帰りがけに、同僚がそんなことを言っていた。 あれは夏。僕はそれを思い出す。もう数…

理系サラリーマンライフ04: 夏と影と家族

今は夏。だから彼女は思い出す。草の匂い。空と飛行機雲。微かな排気ガスの匂い。 遥かな夏の流れ。 ふたり分の青空。 毎年、九月四日に強制的に失われる記憶。 † 「あ。いま、夏か」 理由はないがなぜかノルマになっている特許をひねり出すための、益体のな…

03. 夏を継ぐ猫

「大学生の就職率って、いまは60%くらいなんだってね」昼休み。会社のカフェテラス。 それが今日のランチタイムの、取り敢えずの話題だった。「へえ。そうなんですか」モモ課長の口調からは、それが高いのか低いのかすら判断できず、僕はあいまいにごまか…

定常状態近似

これがあの冒険心と向学といささかの恐怖を持って憧れていたNISTでした。 NISTはなによりもまず研究の場所でした。見上げるような研究棟。 研究室を行く人は他人の都合などほとんど考慮に入れていないように見えたのです。 愛想よくしたり、丁寧な口を利いた…

理系サラリーマンの毎日は特異点でない日々

最近のオタク系コンテンツを見ていると、「どんなものでも登場人物を萌え美少女にさえすればオタコンテンツとして成り立つのではないか」という妄想にとらわれる。たとえばオタク同士のどうしようも無い会話でも、登場人物を女子高校生にすれば受けるとか[1]…

ソードアート・オンライン(1)を半分まで読んだオレが、結末を妄想してみた

承前(ソードアート・オンラインとは) クリアするまで脱出不可能、ゲームオーバーは本当の“死”を意味する―。謎の次世代MMO『ソードアート・オンライン(SAO)』の“真実”を知らずにログインした約一万人のユーザーと共に、その苛酷なデスバトルは幕を開けた。SAO…