定常状態近似

これがあの冒険心と向学といささかの恐怖を持って憧れていたNISTでした。
NISTはなによりもまず研究の場所でした。見上げるような研究棟。
研究室を行く人は他人の都合などほとんど考慮に入れていないように見えたのです。
愛想よくしたり、丁寧な口を利いたりすることなど、
まるで人間としての弱さと考えているかのように無表情に済ましこんでいるのです。

アメリカ人というのはエネルギッシュな夢に取り付かれた楽天家であり、
挫折を知らない冒険家であり、いつも素早い大儲けを狙っている。
「成功しろ!」「出世しろ!」「論文をかけ!」「テーマを変えろ!」
こうした態度も次第に私の心を明るくしてくれるようになりました。
「そうだ……どうなろうと……アメリカで頑張ろう」
私は決心しました。

000


秘技・章替リセット!


001


人が大人になるときって、いつだろうか。 20歳になったとき? 初めて税金を収めたとき? それともラブホテルにいったとき?
「定義による」彼女だったら、きっとこう答えるだろう。定義にやたらとこだわるのは、彼女の特徴の一つだ。そしてきっとこう続ける。「で、その概念を導入して、なにか良いことがあるの。 山田君?」


これは、僕が大人になった時のお話である。そう、ある定義によれば。



002



今日も今日とて、会議室はいっぱいだった。僕はwebの会議室スケジューラを閉じ、ため息を付いた。日本の会社では、いつでも重要な会議が開催されている。冷房の設定温度を26度にするか、それとも27度にするか。物置に積んでいいダンボールは、2段か、それとも3段か。支給品のノートはA4がいいか、それともB5がいいか。そういった重要な案件を四半期ごとに見直すためには、会社に用意された会議室は少なすぎた。そんな状況では、研究員が次の実験手順についてディスカッションするという優先度の低い案件に、貴重な会議室が使えるわけもない。


「モモ課長」
「んー?」
僕の呼び掛けに、上司である木月・シプリアーノ・モモは気の抜けた応えをかえす。視線は新しく手に入れたタブレットバイスに注がれたままだ。膝丈のサファリにキャミソールをあわせ、行儀悪くデスクの上に投げ出された足には、miumiuのミュール。明らかに会社にくる格好ではない。おまけに、頭は名前の通り桃色に染めたショートカット。本人の弁によれば「クォーターにまれに発現する地毛」らしいが、桃色の髪なんていうアニメ的漫画的、あるいはゲーム的存在が、はたして自然界に存在し得るのだろうか? 下期の研究テーマは課長の髪の色と言うのはどうでしょうかね。「会議室が空いていません。残念ですが、打ち合わせは明日で……」
「いやいや」
僕の報告をモモさんは軽い調子でいなす。
「外でやればいいじゃん。天気もいいし、丁度いいよ」
満面の笑みで提案する上司に、僕が逆らうわけもなかった。たとえその笑みの大半が、新しいデバイスを実地で使ってみる喜びからきているのだとしても。




004


そんなわけで唐突だが、僕とモモ課長は、屋上で会議をしていた。


二人で社内をうろつくこと30分。「外で打ち合わせをやろう!」などと洒落たことを言い出したはいいが、哀しいかなここはシリコンバレーではなく、しがない日本の中小メーカー。打ち合わせができる小洒落たカフェテラスなどないのであった。


結局、僕とモモさんは、総務部の倉庫にあった古い応接ソファを拝借し、ビルの屋上に即席のオープン会議室を作り上げた。


「ほい。おつかれー」
ソファを屋上まで運ぶという、慣れない力仕事にいたんだ身体をいたわっていると、モモ課長が缶コーヒーを差し入れてくれた。
「ありがとうございます」
ありがたく受け取り口を付ける。

「意外といいな。これ。なんか少女漫画っぽい」
モモさんはソファの背中をたたきながら、気楽な調子でのたまう。「どうせだったら、しばらくそのままにしとくか」
「でも、これから梅雨ですよ」
「あー。雨に濡れたらまずいか。やっぱり」
「まずいでしょうねえ」

そんな呑気な会話は、雲ひとつない屋上によく似合った。


postfix

うーん。あんまり理系っぽくないし、あんまりサラリーマンっぽくないなあ。

個人的には理系エンジニアの日常を「ザ・ホワイトハウス」[1] みたいな、面白カッチョいい(萌え)専門家ドラマっぽくできたらいいなあ、と思ってたんだけど。


なんかいいネタないっすかねー。