現代の研究者の条件(覚え書き:既に何度も言われているが、いまだ完全に実現はされていないいくつかの事柄について。ドラッカーの考察をもとにして)


...... 良い研究室と悪い研究室のあいだの生産性の差は、まだ十分に説明されていない。両者の間の研究費の多寡を考慮しても、その生産性にはまだ2-3倍以上の差があるように観察される。...... 良い研究室の環境は、間接作業を少なくし、直接作業を多くする。悪い研究室では、時として間接作業の割合は、直接作業の割合を上回ることさえある。


...... 従来の評価方法のコンセプトを改良するだけでは、この問題は解決されない。新しいアプローチが必要とされている。新しい尺度は第一に、時間でなくてはならない。成果は才能・運、その他運命的な多くのものに左右されるが、可変であって制御可能なものは時間だけである。時間を最大化する方法こそ、第一にとられるべきである。


...... お金に渋い人は多いのに、我々は時間に対してなんと寛容なことだろう! と古代の賢人(セネカ)も言っていた ......


このことは、研究上に対する、新しいコストと利益の概念をもたらす。例えば従来は、余分の研究費を申請する膨大な書類作成は、研究予算を増やすが故に無条件に利益であるとされてきた。新しい評価方法では、この書類仕事はコストである。書類仕事は何も生み出さないのではなく、明確に負債である(時間を消費するから)。故に我々は、得られた余分の研究費と時間上の損失を計量しなければならない。......


...... これまで、研究者は一つの専門を長年にわたり研鑽し深化させてきた。研究テーマの変更はほとんど行われないか、あるいは時間をかけて少しずつ行われてきた。......


...... これからは研究者間の競争の激化とプロジェクト寿命の短縮、産業構造の素早い変化にともない、これら研究テーマの変更は必然となり、かつ迅速に行わなくてはならなくなる ......


...... このため、研究者は自分の持つ技能を、一つの研究テーマと密に結合させるのでなく、適度なバランスを持ってモジュール化しなければならない。...... 各技能は全体に何が提供できるのか、そして全体は各技能になにを提供できるのかを明確にしなければならない。これは研究テーマの変更に対し素早い技能の組み替えを行うために必要なことである。......


...... 研究を、研究費を人類の知識と技術の限界拡大に変換するプロセスとして捉えるならば、研究は実験が終わったときに終了するものではないことになる。論文の出版は言うまでもなく、マスコミによる発表、市民への啓蒙、実際の製品/社会の変革も、実験の一部であると捉えなければならない。すなわち、その知識/技術を持って製品/社会を変革することを、実験の一部として計画に組み込まなくてはならない。(論文の出版から逆にたどって実験を計画する手法は、すでに広く知られている。しかしこれを本当の意味で実施できている研究者は少ない)......


...... 19世紀末の大発明時代には、平均して15-18ヶ月にひとつの大発明がなされ、すぐさまその技術をもとにした産業が勃興した......


...... これからも、少なくとも実験家にとっては、実験はすべての中心にあり続ける。新しい実験結果はすべてのものを賄い、あらゆる研究上の価値を作り出す。......


....... 理論はランタンである。どんなものでも2番手が楽なのは、なにはともあれ正しい手法さえとれば、それができるということを知っているからだ。開拓者の苦しみは、それがはたして可能な道かわからないということ、暗闇に足を踏み入れなければならないという精神的ストレスである。もしそのとき、研究者が理論というランタンを持っていなければ、とても暗闇を進む勇気は続かないであろう。......